Chose de parler de la danse ダンスについて語ること

Autoportrait de l'auteur en danse :パリ、ダンス、言葉の敷石を踏みしめて

クリストファー・ウィールドン氏の語る「バレエ振付界の現状」

イギリス人振付師クリストファー・ウィールドン(Christopher Peter Wheeldon)氏のドキュメンタリー映画「ストリクトリー・ボリショイ」。

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ロシア特有の、偏ったダンス界の常識までを実直に描いた作品で、話題になりました。

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ウィールドン氏はもともとシェイクスピアハムレット」を振り付けようと、インスピレーションを得るため、サンクトペテルブルグにある名門校「ワガノワ・バレエ・アカデミー」を訪れたところ。

バレエ史に名を刻む、ミハイル・バリシニコフルドルフ・ヌレエフらを輩出した場所。そしてフランス人振付師マリウス・プティパがここに来て名作「眠れる森の美女」を生み出した部屋です。

1890年初演のこの作品はプティパが死去して100年以上が経った今も、当時と変わらないスタイルで引き継がれ、多くの振付師がアレンジを加えています。

「ジゼル」「ラ・シルフィード」「ドン・キホーテ」もプティパなしでは考えられない。人もダンサーも死ぬ、でも作品は永遠に生き続ける。

でもウィールドン氏は永遠に生き続けるために、作品を手がけるようになったわけではないと言います。

冬物語」「シンデレラ」コンテンポラリー短編、パトドゥの「アフター・ザ・レイン」。2015年にはトニー賞受賞作品となった「パリのアメリカ人」でブロードウェイでの成功をも手中に収めました。

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ウィールドン氏は英国ロイヤル・バレエ団のち、ニューヨーク・シティ・バレエ団に移籍して7年。ソリストとして活躍中のまさに絶頂期、2000年に引退し、振付師へ転向します。
「ダンサーとして続けていくことに先が見えなかった」
パリオペラ座、英国ロイヤルに見られるように、完全階級制の社会。
ソリストへの昇進は、長年バレエ団へ身一筋に捧げた努力の報酬であって、特にその後の道が確保されたわけではなかったのだ、とも。

ダンサーは幼少時から身体にムチを打ってダンスを続けます。背中、膝、足首、ボロボロでないダンサーなんて一人もいません。引退の日は舞台を去る悲しみよりも、むしろ「ほっとした」「もう明日から身体をいじめなくていいのだ」と本音ではホッとしているダンサーが・・・口には出さないけれど、ほとんどではないですか?と語ります。

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28歳でニューヨーク・シティ・バレエ団最年少の専属振付師に就任。「恐ろしくないわけがなかった」。年配の振付師か世代交代が行われた時期が後押しした。

近年になって彼は古巣の英国ロイヤルに戻り「アリスの不思議な国の冒険」「冬物語」で、揺るぎない地位を確立します。

 

彼が今危惧しているのは、女性振付師不足について。英国内では長い間議論を醸してきた問題で、2016年には、現代ダンスの振付師アクラム・カーンが「女性振付師を増やすためだけに女性への機会を増やすのには反対」と発言、大きな物議を醸しました。

英国・米国の女性振付師はこれまでも、業界の不平等な給与水準、名門バレエ団に振付師として活躍する道を閉ざされてきたと声を上げてきました。

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ウィールドンの後任振付師もまた男性で、ニューヨーク・シティ・バレエ団の作品に女性振付師のものはありませんでした。

素晴らしい指導者なら女性も多いのに、振付師となると世界でも片手で数える程。

バレリーナとしてのキャリアはせいぜい20年。パリオペラ座は42歳が定年です。

教える人も、教えられる人もいつかは必ずこの世界から姿を消します。

でも「作品」は、魂を持って生き続ける。振り付けは書き残すことができ、人がこの地上で生きる時間も限られた範囲も、遥かに超えていくことができる

バレエという芸術においては、それを表現する身体の主役はほとんどが女性のものだったという歴史の一方で、その女性の身体を動かそうとするのは、数世紀に渡ってほとんどが男性、という現実があります。

ニューヨークタイムズのウィールドン氏のインタビュー記事はこちら。

Review: An American in London (Bernstein, That Is) - The New York Times