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Chose de parler de la danse ダンスについて語ること

Autoportrait de l'auteur en danse :パリ、ダンス、言葉の敷石を踏みしめて

「ピナ・バウシュを読む」を書き終えて

f:id:kotorio:20170301033806p:plain こんな優しい微笑みのピナは珍しい。いつも寡黙で、哲学する人の横顔だったから。でも晩年は常にこんな表情を浮かべていたのでは、と思う。人として満たされた者だけが持つ独特のオーラ。与えたものだけが辿り着く、どこか、あるところ。

拒食症か戦時中の栄養失調の子供みたいに、ガリガリで骨と皮ばかりのピナが好きだった。若いときも、老いてからも。カフェミューラーで見せる、風が少しでも吹こうものなら今にも倒れそうな細い枯れ枝。若いときの写真を見ても、極端に細すぎる体型の持ち主だから生まれもっての体質もあるだろうが、自身でもジュリアード留学中、節約のため痩せてゆく身体をみるのが好きだった、と言っている。

ピナ作品に限らず、コンテンポラリーは決められた型でなく踊り手の内部をえぐり出すもの。だからこそ、より強靭に、プロフェッショナルに鍛えられた真の踊り手の「身体」が必要だという信念は、私は何があっても揺るがない。

ウッバダール舞踊団のダンサーには、目を覆いたくなるような太めやずんどう体型、短い足の者もいる。「多様性」を受け入れたピナとその周りに集う人達。類は友を呼ぶ方式で、日本で愛や感動の安売りが(商業的に)なされることが、私には耐えられなかったのだろう。私にとって芸術は、神が選んだほんの一握りの者たちの宿命であり(本人の意思とは全く関係なく)崇高かつ神聖な、決して土足で踏み入れてはならない領域だからだ。しかしながら改めてピナの肉声を拾い集めてみると、生前語られなかった生身の姿が、少しだけ近づいた気がする。

拒絶のギエム、慈悲と受容のピナ。孤高のギエム、与え、愛し、愛されたピナ。

天地ほどに異なる二人の傑出した舞踊家を比較することなど余りに酷で、ましてや優劣をつけるなど断じてできはしない。殊更、踊り手と振付家という決定的な違いがあるのだが。

「振付とは人の身体で空間をデザインすることです。そしてダンスの物語には精神的な動機付けが重要です」 

ダンス創作の上で必要なすべては、自然にピナの精神に蓄えられていた。彼女は生涯をかけてそれを磨き、周囲に分け与え続けていた、ということ。

「この仕事が私を呼んだ、と思っています。私はそれに従い、以来、仕事が与えてくれる喜びを享受しています。私の創作する作品全ては私が影響されてきたことそのものです」

大きすぎる言葉を使わず、いつも静かな、けれどあたたかな眼差しで人間を見つめていたピナ。今は遠いどこかで、タバコを燻らせているに違いない。

以下は当記事を作成するにあたって参照したフランス語(一部英語)のピナ関連参考文献。日本語への翻訳出版がなされていないものが多く、いつか手がけられたらーーとは思うけれど、遠い夢かな。

Pina Bausch - Histoires de théâtre dansé Broché – 13 juin 1997

Pina Bausch ou l'art de dresser un poisson rouge Broché – 7 septembre 2016
de Norbert Servos (Auteur), Dominique Le Parc, Cécile Delettres (Traduction)

Le Langage chorégraphique de Pina Bausch Broché – 24 avril 2009
de Brigitte Gauthier (Auteur)

chez.pina.bausch.de Broché – 18 novembre 2015
de Jo-Ann Endicott (Auteur), traduit de l'allemand par Mathilde Sobottke (Auteur)

Pina Broché – 18 juin 2014
de Walter Vogel (Auteur), Salomon Bausch (Préface), Mathilde Sobottke (Traduction),

Café Müller (+DVD) (Anglais) Relié – DVD-Vidéo, 23 septembre 2010
de Pina Bausch (Auteur)

Pina Bausch vous appelle Broché – 24 avril 2007
de Leonetta Bentivoglio, Francesco Carbone (Auteur), Leonor Baldaque (Traduction)

f:id:kotorio:20170301033447p:plain 最後に…

このピナの写真を見たとき、一瞬、息が止まるかと思うほど驚いた。私を世界でただ一人愛し育ててくれた亡き祖母の面影そのものだ。私はピナを追いながら、幼少の私を求め、祖母を追いかけていたのかもしれない、と。