Chose de parler de la danse ダンスについて語ること

Autoportrait de l'auteur en danse :パリ、ダンス、言葉の敷石を踏みしめて

ピナ・バウシュを読む その1「オルフェオとエウリディーチェ」

パリ・オペラ座ガルニエ宮で2018年ピナ・バウシュ振付「オルフェオとエウリディーチェ」上演が決定した。2008年、2013年シーズンでも上演されているこの作品を分析するとともに、改めて、ピナその人に近づいてみようと思う。シリーズ「ピナバウシュを読む」4回に分けてまとめた。

初演は1975年。1991年に26年ぶり再演。2005年のパリ・オペラ座初演が好評により、2008年の再演では仏国営放送で生中継された。(ピナが亡くなる前年)

ピナは、ギリシャ悲劇のオルフェオとエウリディーチェ、愛の神アモーレ、それぞれの登場人物に歌手(オルフェオにメゾソプラノ、エウリディーチェと愛の神にはソプラノ)をあてがった。声は「神話においての詩的物語」踊り手は「その物語の厚み」と役割を分担させ、この舞台を「オペラバレエ」と位置付けて全4部で構成している。

下記は2008年。踊り手が違うと別作品のよう。

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第1場 哀しみ

高くリフトされ、宙に横たわった女性は、蛇に噛まれ死んだエウリディーチェ。枯れた大樹の舞台装置が、天井からの光に浮かび上がる舞台装置は効果的。黒い衣装の群舞ダンサーたちが合唱とともに嘆きを表現する。舞台奥手、壁際の高い位置に、血の気を失った純白の衣装の女性が。「霊界に行ってしまった妻を取り戻すためなら何でもする」と愛の神アモーレに誓うオルフェオ。

第2場 暴力
霊界に妻を捜しにやってきたオルフェオ。黒服の男性ダンサー象徴するところの死神に立ち向かう。小道具としては、椅子と、その脚に掛けられた糸が舞台を横切って張らる。照明の光と、それに合わせた白い衣装の女性ダンサーたちがどこか能や狂言をも思わせる水平の動きを見せる一方で、黒服男性群舞はひたすらジャンプを繰り返し躍動感を表す。女に代表される人間界への未練と苦悩、男が表す黄泉の国へと引き入れる死神。黒と白、静と動、生と死の対比。

第3場 平和
オルフェオがエウリディーチェを幸福の園で見いだす。「精霊の踊り」は女性陣による軽やかな舞。透明のついたて、手前に置かれた赤いヒナゲシの花、薄緑色のソファー。ダンサーの動く肉体がひとつの舞台装置として使用されたことも特徴的。再会する二人、愛の神と誓った約束。地上へ戻る場面は絵画的。

第4場 死
パステル的な明るさの3場から、灰色の壁だけの舞台となり、裸のオルフェオ、赤の衣装のエウリディーチェ、黒服の歌手と、何か不吉な色調がラストを予感させる。地上に着くまで振り返ってはいけないという誓いを知らないエウリディーチェ。自分を見てくれないことに悲嘆する妻にたまりかね、夫は振り向いてしまう。愛の神との約束を破ったその瞬間、赤の衣服の妻は床に崩れ落ちる。

オルフェオのアリア「エウリディーチェを失って」ピナはダンサーを一切動かさず、歌手を亡骸の前にかがみこませた。物語の最も重要なこの場面で、歌手がダンサーに代わって演じる。(観客ーー作曲家グルックの和声と一体となる効果)
重要な場面では、音楽と歌手を引き立てたピナの演出は作品そのものへの敬意がある。 オペラでは愛の神によってハッピーエンドになるが、ピナはそうせず、原作のギリシャ悲劇のままにした。

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人は自らの愚かさで自滅する。ギリシャ悲劇の普遍的メッセージを歪めることなく「オペラバレエ」で表現したピナ。

ーー個人的にはパリオペラ座ダンサーの演ずるにふさわしい仕上がりと思う。

ピナ・バウシュを読む・その2へ続く

愛についての可能性ーーピナ・バウシュ「カーネーション-NELKEN」

20世紀後半の演劇・ダンスの歴史を塗り替えたピナ・バウシュ。80年代の代表作『カーネーション-NELKEN』が3月、さいたま芸術劇場にやってきます。

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舞台一面を埋め尽くす無数のカーネーション。そこに現れた一人のダンサーが、ガーシュウィンの『私の愛する人』を手話で踊る――ダンスと演劇が共生する〈タンツテアター〉というこれまでにない手法で、1989年の来日公演は多くの日本人に衝撃を与えました。28年振りの来日となります。

個人的見解ーーーピナに触れたダンサー達は一様に言います。ピナは、自分の中にある可能性を見抜き、引き出してくれた、彼女とその作品に触れることで自分でいることの大切さ、人生、世界とは、広く興味深い、と教えてくれた…と。

孤高の「マドモアゼル・ノン」ギエムに対し、ピナはもしかしたら「マダム・ウィ」(いつでもどうぞ)=扉を常に開き、そのことをダンスを通じて伝えた人だったのかもしれない。

ピナ作品に人が動かされやすいのは、それを見て容易に「私の物語だ!」と思えるからなのでしょう。舞台装置を、そしてダンスを、人と人とが触れ合う場所にした。(これが私がピナ作品を苦手とする最大の所以だ)

基本的にはひとり。彼・または彼女ははじめ自己紹介をし、そのうち、他の人と触れ合って愛や葛藤などの情が芽生え、最後はまたひとりになる。このパターンが繰り返し使われているように感じます。

舞台で起こる毎回の出来事は、見る人だけでなく踊り手にとってもおそらく新鮮で身を切り刻まれる作業ではないかと。要するに、ピナの作品は「愛」だというダンサーもいるほどです。

フランスに居てピナ作品を見るとき、どうしても仏的哲学思考というか、デリダとピナを結びつけてしまう。彼女の創作は「私があなたを愛し、あなたが私を愛する」という図式下にある。私とあなたという二つの軸がまず存在することが示され、二つが愛という関係によって結ばれる構造。デリダ的に言えば、相手を自分から独立した他者と見なした上で「その他者のどこと関係を結ぶのか」という問いも投げかけられるが、長くなりそうなのでまた今度。

My dancers are beautiful. and I try to show how beautiful they are inside.

ーーー私の関心は人がどう動くのかではなく何が人を動かすのか ピナ

ヴッパタール舞踊団『カーネーション-NELKEN』 2017年3月16日(木)17日(金)19:00  18日(土)15:00 19日(日)14:00

「ニジンスキー」パリ公演/カナダ・ナショナル・バレエ

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ナショナル・バレエ・オブ・カナダの2017-18シーズンが発表され、2017年秋にパリのシャンゼリゼ劇場でジョン・ノイマイヤー振付の「Nijinsky ニジンスキー」が上演されることが分かりました。以下公式サイトです。

national.ballet.ca

《ジョン・ノイマイヤーによるバレエ》

現代振付家で最高のひとりノイマイヤーは、ヴァスラフ・ニジンスキーの生涯と仕事に関しても世界的権威といえる。ダンス、そして現代文化において伝説的かつ複雑な人物の心と精神を掘り下げた作品を創り出した。

驚くべきテクニックと画期的なアプローチでNijinskyを表現したノイマイヤー、男性ダンサーの一般的観念だけでなく、ダンスにおける劇的な可能性を示す。

比較的伝記的な物語に仕上げている。彼(ニジンスキー)の芸術、人との関係におけるアイデンティティ、彼が生きた危機的な時代。 ノイマイヤーは振り付けのみならず、舞台装置、衣装、照明、全てをデザインし、天才と狂気の間を驚異的な共感で描く。

ニジンスキーは観客を感情的に傷つける。驚異的なアーティストの感性とビジョンに目を覚ます。

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個人的には、カナダのナショナル・バレエがノイマイヤー作品を扱うこと自体は珍しくはないでしょうが、やはり本家本元のハンブルグバレエには「欧州精神の厚み」(主観的な部分)で、かなわない気がします。ニジンスキー「春の祭典」歴史に残る初演の舞台シャンゼリゼ劇場でこの作品が上演されるというのも、また話題を呼びそう。

ヌレエフの再来 美しき異端児セルゲイ・ポルーニン

19歳で英ロイヤルバレエ団の史上最年少プリンシパルとなるもピーク絶頂で突然の退団。バレエ界の異端児、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー映画が完成しました。挿入歌“Take Me To Church”は1700万回以上の再生回数を記録し、バレエやポルーニン本人を知らなかった人々を驚愕の渦に巻き込んでいます。

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<ヌレエフの再来>と謳われる才能と、それを持て余しさまよう心。
美しい容姿と、類い稀なる才能で世界を魅了してきたセルゲイ・ポルーニン。
ウクライナ出身、19歳の時、最年少で英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルとなったポルーニンは、2年後、人気のピークで電撃退団。そのニュースは世界中に報道された。スターから自滅の淵へーーー様々な噂が飛び交う中、再び注目を集めたのは、グラミー賞にノミネートされたホージアのヒット曲“Take Me To Church”のMVだった。

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撮影時点では、ポルーニンはバレエ界に絶望し、ダンスを辞めようと思っていたそう。しかしながら9時間に及んだこの撮影に満足し、再び希望を見出します。ロシアに行って、モスクワ音楽劇場バレエ芸術監督(当時)イーゴリ・ゼレンスキーのもと、再び舞台に復帰しました。現在はミュンヘンにおり、映画出演など俳優業としてのオファーも来ているとのこと。

若く、すば抜けすぎたゆえの才能が「壁」に壊されるのは見ていられない。どこかギエムにも通ずる、むしろ若いゆえにそれよりも危うい橋を渡っているように見えて、心配していました。人生は生きるに値する、倒れても、何度でも立ち上がることができるーー

『ダンサー セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』

(2016年/英・米/85分 原題:DANCER)監督:スティーヴン・カンター 

『Take me to church』演出・撮影:デヴィッド・ラシャペル
出演:セルゲイ・ポルーニン、イーゴリ・ゼレンスキー、モニカ・メイソン
日本では2017年7月、Bunkamuraル・シネマほか上映予定だそうです。

ジェルマン・ルーヴェ、パリ・オペラ座バレエのエトワールに任命

f:id:kotorio:20170212214625p:plain昨年末のことになりますが、12月28日パリ・オペラ座「白鳥の湖」公演後、ジェルマン・ルーヴェが、パリ・オペラ座の総裁ステファン・リスネールによってエトワールに任命されました。瞬間の映像、何度見ても胸に込み上げてくるものがあります。

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11月の昇進試験で1月1日にプルミエ・ダンスールに昇進することが決まっていたジェルマン・ルーヴェ。飛び級でエトワール任命したことになります。この若さでついに、世界最高峰バレエ団のトップに上り詰めました。

ジェルマン・ルーヴェはブルゴーニュ出身、2005年パリ・オペラ座バレエ学校入学、2011年にパリ・オペラ座バレエ入団。2014年にコリフェ、2015年にスジェに昇進。2013年、オペラ座の若手ダンサーに贈るカルポー賞を受賞。2016年の昇進コンクールで、2017年1月1日付でプルミエ・ダンスールに昇進が決定していたところです。

コリフェで「くるみ割り人形」の主役を踊り、2016年はレオノール・ボラックと「ロミオとジュリエット」で主演を果たしました。年末「白鳥の湖」はスジェでありながら、王子役というエリートの道のり。バンジャマン・ペッシュが「絵に描いたようなプリンス」と言っていたのもうなづける。理想的な貴公子体型とプリンスオーラの持ち主。

日本で公開されたドキュメンタリー映画『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男』でも登場しています。こちらは日本版のPR映像。なまりのない綺麗なフランス語を話しますね。改めてみると、まだまだこれから開花する、若き好青年という印象です。皆さん、要チェックですよ〜〜!!

2017年3月のパリ・オペラ座来日公演にも出演予定です。

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野生のピアニストーーアンニュイなフランス人、エレーヌ・グリモー

フランス人ピアニスト、エレーヌ・グリモーHélène Grimaudさん。現在は米国在住。フランスでコンサートでお目にかかれる機会は滅多になく、日本公演の方が多いぐらい。

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人気は容貌ゆえと思いきや、彼女の独特の生い立ち、普通のお嬢さんとはべらぼうに違う価値観に人は惹かれるようだ。仏語で自伝があり、日本でも翻訳が出版されている。2004年、邦題は『野生のしらべ』。

69年、ユダヤ系言語学者の家庭に生まれる。

「15歳でCDデビューを果たし、天才少女と言われたピアニスト、エレーヌ・グレモー。苦悩と迷い、憧れと確信にみちた半生をみずみずしく綴ったエッセイ。学校に溶け込めない、友達ができない、勉強も習い事も上手くいかない。気持ちを表現できない。ここではないどこかべつの場所・・・度重なる自傷行為やひきこもりと闘う彼女を救い、癒したのは、本と自然とピアノ、そしてオオカミだった。今、エレーヌは、世界中の子どもたちのすこやかな精神のために、惜しみなく手をさしのべる」

15歳でCDを出したあとはフランス音楽にさして興味もないことから米国に移り住み、大学で動物生態学を専攻。なんとニューヨークにオオカミ保護センター(Wolf Conservation Center)を設立してしまった。

シンプルな黒服に、黒のリボンで束ねただけの髪。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、男性的という言葉では表しきれないほどの力強さ。まさに野生的なパッション。

f:id:kotorio:20170212193441p:plain「私は子ども時代に何のノスタルジーをも感じないーーJe n'ai aucune nostalgie de l'enfance」。

Hélène Grimaud — Official Website

「コーヒー・ウィズ・ピナ」ーーピナ・バウシュのドキュメンタリー

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「Coffee with Pina - By Lee Yanor 」(2006) 

監督 リー・ヤノール Lee Yanor 振付 ピナ・バウシュ Pina Bausch

Tanztheater Wuppertal(ヴッパタール舞踊団)収録作品「アグア」 Agua Paris 2002「Rough Cut」Tanztheater, Wuppertal 2005 

イスラエル出身のリー・ヤノール監督によるドキュメンタリー作品。2002年パリ、2005年ヴッパタールで撮影されたもの。CS(シアターテレビジョン)録画。10年以上付きあいのあるヤノール監督にだけ見せるピナの素顔。日本の商業エージェントを通して「感動」の押し付けや安売りを垂れ流さない、貴重な映像。

聞き手はリー・ヤノール監督本人だろうが、ピナのささやきを「わたし」が、隣で聞いているかのよう。パリのカフェにいるピナ、タバコをくゆらすピナ。

彼女のドキュメンタリー映像はただでさえ少ない。語ることをほとんどしていない(まるで自身の声や想いは舞台のダンサーたちの身体だから何も言葉にする必要がないと言っているような)ゆえ、リハやダンサーたちとの自然な様子に驚く。

冒頭、そして中盤の所々で挿入される、何気ないピナの手だけの動き映像、何故か惹きつけられる。

ヴッパタールのスタジオでの細い身体のピナ。わたしにとってはこの世の存在と思えないほど気高く、生きた奇跡だった。わたしはあの身体に憧れる。細く細く、鋼のような強さ。静けさ、安定。

ピナは全てを持って、与えていた。苦労なんかひとつも語らずに、ある日ふっとあちら側の世界に行ってしまった。